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東京地方裁判所 平成5年(ヲ)2055号 決定

当事者 別紙当事者目録に記載のとおり

主文

1  相手方らは、別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)について、これを取り壊し、毀損し、汚損し、シャンデリアその他の建物に設置された物品を取り外し搬出してはならない。

2  相手方日本クリッシャン株式会社は、買受人が代金を納付するまでの間、本件建物について、その占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならない。

3  相手方株式会社コーキ、相手方有限会社丸本、相手方株式会社築地流通サービスは、これらの相手方に対する本決定の送達後三日以内に、本件建物から退去せよ。相手方株式会社コーキ、相手方有限会社丸本、相手方株式会社築地流通サービスは、相手方日本クリッシャン株式会社以外の者に、本件建物の占有を移転し、または占有名義を変更してはならない。

4  相手方日本クリッシャン株式会社は、相手方日本クリッシャン株式会社に対する本決定の送達後三日以内に、本件建物から相手方株式会社コーキ、相手方有限会社丸本及び相手方株式会社築地流通サービスを退去させよ。

5  執行官は、買受人が代金を納付するまでの間、主文第一項から第四項までの命令が発せられていることを公示しなければならない。

理由

1申立の内容等

本件は、売却のための保全処分(民事執行法五五条一項)として、主文記載の内容の命令を求める事件である。

2記録により認められる事実

記録によると、次の事実を認めることができる。

(1)  申立人は、平成五年一月一八日相手方日本クリッシャン株式会社所有の本件建物について、強制競売の申立てをして、一月一九日競売開始決定(東京地裁平成五年(ヌ)第一一号事件)を取得した。

(2)  相手方日本クリッシャン株式会社は、申立人から本件建物の敷地の購入資金及び本件建物の建築工事資金の融資を受けるに当たり、本件建物が完成した暁には、本件建物に第一順位の抵当権または譲渡担保を設定する旨約束していたが、本件建物が平成四年秋に完成したにもかかわらず、抵当権設定登記等をするのを拒否した。

(3)  そこで、申立人は、本件建物について処分禁止の仮処分を申請し、平成五年一月一二日その決定を得た。

(4)  ところが、その決定の送達がなされた頃になって、いわゆる豪華マンションであり、販売用の物件である本件建物に、販売にそぐわない相手方株式会社コーキ、相手方有限会社丸本、相手方株式会社築地流通サービスらの事務所の看板が掲げられた。

(5)  相手方株式会社コーキの代表者小野幹雄(別名小野耿熙(こーき))は、相手方日本クリッシャン株式会社の相談役と称して、申立人との交渉に当たっていた人物であって、本件の事情に通じている。また、小野は、申立人に対して、本件建物からの退去を求めるのであれば、一〇億円を支払えと法外な要求をし、また、本件建物の建築をした佐藤秀工務店に対して「お前らの会社に乗り込んで会社をがたがたにしてやる」などという発言をしていたもので、義人党にいたことがあるという情報もある人物である。

(6)  そして、相手方株式会社コーキ、相手方有限会社丸本、相手方株式会社築地流通サービスらが看板を掲げた後、その関係者と思われる人物が本件建物に何度も入って、建物から物品を搬出したり、建物内から物を破壊するときの音が聞こえるようになった。

(7)  相手方株式会社コーキ、相手方有限会社丸本は、上記仮処分の送達がなされた頃に本件建物へ本店を移転する登記をした。しかし、本件建物には、電話も引かれていない状況であり、本件建物への本店移転は、実体をともわないものである。

(8)  相手方株式会社築地流通サービスが、看板を掲げているが、法人登記はなされておらず、実体のある会社であるか疑問がある。

3当裁判所の判断

(1)  不動産の価格を著しく減少するかその恐れがある行為について

上記の認定事実によれば、相手方株式会社コーキ、相手方有限会社丸本、相手方株式会社築地流通サービスは、本件建物を、それぞれ執行妨害を目的として占有する者であると認められる。

債務者が債務の弁済をすることができない状態であるにもかかわらず、競売物件を執行妨害を目的とする者に占有させる行為は、不動産の価格を著しく減少する行為に該当し、債務者として債権者に対して、競売物件の担保価値の維持に協力するべき義務に違反する行為であって、許されないものである。

また、本件建物について、これを取り壊し、毀損し、汚損し、シャンデリアその他の建物に設置された物品を取り外し搬出する行為をしている可能性があるが、そのような行為が本件建物の価格を著しく減少させることはいうまでもない。

そして、これらの行為は、差押え直前から開始されているものであるから、強制競売事件を基本とする売却のための保全処分申立事件である本件でも、禁止及び排除の対象となるものと解される。

(2)  退去命令について

そして、競売物件を執行妨害を目的とする者が占有している場合には、これを退去させなければ、競売につき買受け希望者を集めることはできず、公正な競売を実現することができない。したがって、民事執行法五五条一項の処分として、その退去を命じなければならない。

(3)  退去命令等の公示について

当裁判所は、このような公示を命じることは適法で、かつ必要なものと認める。その理由は次のとおりである。

民事保全法上の仮処分については、不作為を命じる仮処分とともにその公示を執行官に命じることは、法的には必要がなく、必要のないことを命じることは許されないと解されるのが通常であろう。

つまり、民事保全法上の仮処分において、公示を命じることは通常は許されないと解されているが、それは、法的には必要のないことだからにすぎない。逆にいえば、法的な必要性が認められれば、公示を命じることも許されるのである。

本件は、民事保全法上の仮処分ではなくて、民事執行法上の保全処分である。

民事執行法上の売却のための保全処分においては、第三者に対してこれを発令することができるのは、法律の認める特定の場合に限られる。したがって、競売物件の所有者に対する保全処分がなされた後に第三者がこれを占有するに至った場合、その第三者が保全処分の存在を知っていたか否かは、その第三者に対して保全処分を命じることができるか否かの判断においてきわめて重要な意味を有することになる。よって、公示を命じる法的な必要性を認めるべきである。

(裁判官淺生重機)

別紙当事者目録

申立人 株式会社オールコーポレーション

代表者代表取締役 相良右章

右代理人弁護士 俵谷利幸

同 伴義聖

相手方 日本クリッシャン株式会社

代表者代表取締役 大石恵津子

相手方 株式会社コーキ

代表者代表取締役 小野幹雄

相手方 有限会社丸本

代表者代表取締役 谷部カズ子

相手方 株式会社築地流通サービス

代表者代表取締役 不詳

別紙物件目録

壱、所在 東京都渋谷区千駄ヶ谷参丁目参番地弐参

家屋番号 参番弐参

種類 共同住宅

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下壱階付五階建

床面積 地下壱階54.29平方メートル

壱階 484.75平方メートル

弐階 514.63平方メートル

三階 553.06平方メートル

四階 370.53平方メートル

五階 260.82平方メートル

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